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井口奈己『犬猫』

 

今朝友達とのLINEで、日常的に「あ、今これ映画みたい」といつも思って生きているかという話になって、僕は意外とそうでもないかも。と答えたけど、いつでも無意識に自意識ピンと張り詰めて生きてしまっている僕、虚構の陶酔は往々にしてあるじゃないか、場合によってはやむを得ない逃避として。他人を浮かべて省みると現実と映画、人生と物語、現実とフィクションの境目がぐにゃりとしている人っていうのは少しやばくて少し怖くて少しかわいいな。

 

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映画の喜びは人それぞれ作品それぞれだけれども、自分の知らない見たことのない新しい世界を体験するっていうのは確かに在る、その一方で、自分の知っている世界が新しいものとして見えてくるというのも映画の大きな喜びではないだろうか。今日見た井口奈己監督の『犬猫』(2004)はどう考えても後者だった。留学で家を空けた友達の家で共同生活することになったヨーコとスズの一悶着ある友情の話。

 

登場人物はヨーコとスズとその元カレの西島秀俊とヨーコが惹かれてる忍成修吾なんだけどマジで全員その辺に住んでそうなんだよね。全員の登場人物が自分の家から徒歩10分圏内にいそうだ。しかも全員愛おしい。引きの構図が多いからそう思えるのかもしれないが、ヨーコの世界でもスズの世界でもないその辺の世界で映画が作られていて、我々は彼女たちを客観的な視点から見ることになって、そのちょっぴり愚かな彼女たちそれぞれを愛おしく思えてくる。とってもチャーミングなんだよ。

 

撮影もたぶん僕が今寝てるここから徒歩10分圏内のその辺でやってるに違いないです。と思わせてくれます。暮らす家、図書館、コンビニ、河川敷、橋、坂道、階段、犬と猫と鳩。ドカンと派手な舞台装置は出てこないし、殺人事件は起こらない。でも実はそれがぼくたちの普通の日常でしょう?その、私たちと地続きの世界をこんな風にまるで讃えるように見せてくれるのか、と心が震えた。部屋の中へ吹き込んでくる風、揺れるカーテン大きな窓、心地よい自然光、あの縁側。ていうか光に照らされたコンビニの雑誌コーナーつまり窓際ってこんなに美しかったんだね。奇跡みたいなコンビニってこれか?

 

だから究極は「自分たちの暮らしにカメラを置けばこのように価値ある映画になるのではないか?」と錯覚します。でもね、絶対そんなわけないんだよねアハハハハ!こんな奇跡みたいな映画は撮れるわけねーよ!わざとらしくなさを精巧に丁寧に作っている。監督はきっとロケハンの時点でここにこう人間を置いてこの時間帯に撮ればいい映画になるって見えているんだろうなと思うし、待ちに待った完璧なタイミングで光も風も撮っている。でもありふれているように見える。クゥ。

 

『犬猫』を見た後に外に出れば、いつもの駅までの通り道にも映画が見えるはず。日常の中で「これ映画みたい」っていうより「これも映画になるのかも」って感じ?伝わったかな、ぜひ見てね。

 

あと井口奈己監督の

人のセックスを笑うな』気が狂いそう

『ニシノユキヒコの恋と冒険』縁側と風

は最高だし世界地続きだな系でいうと濱口竜介監督作品とか井口監督の会話場面が好きならエリックロメール作品もオススメです。

 

おやすみ